工場の省エネ対策のアイデア10選|導入しやすい改善施策と企業が取り組むべき理由
工場の省エネ対策は、これまで「した方がよい」程度でしたが、今後は省エネ・省CO2対策をしていない企業は、市場競争力の低下や取引相手がいなくなるといったリスクに直面する可能性もあるでしょう。
この記事では、企業が省エネに取り組むべき理由もあわせて、具体的な省エネ対策をご紹介します。
工場の省エネ対策のアイデア10選
まずは工場の省エネ対策について1のアイデアをご紹介します。現場で実施されていない項目があった場合は、ぜひ参考にしてください。
コンプレッサーのエア漏れ改善
工場での圧縮空気使用量のうち、約20%がエアー漏れによって無駄になっていると言われています。この漏れは主に配管、ホース、継手等から発生しており、これらを適切に修繕していくことで大きな効果が見込めるでしょう。
エアー漏れを改善し、コンプレッサーの稼働率を低下させることで、電力消費量を削減できます。
エアー漏れ箇所の特定は、専門技術者の診断を受ける、診断機器をレンタルし自社の従業員で検査するといった有償の方法以外にも石鹸水でも調査できる箇所はあるので、定期的にエアー配管の点検やエアー使用設備をメンテナンスしましょう。
ボイラーの熱効率向上の改善
ボイラーは多くの工場で使用されており、皆様の工場にもあるのではないでしょうか。そんなボイラーですが、燃焼効率を上げることで燃料消費量を低減させることが可能です。
ボイラー効率を上げる代表的な方法を紹介します。
- 空気比の適正化:熱損失低減のため、1.1~1.3の範囲内に収まるよう管理する
- 排熱回収:排ガスの熱回収により、給水や燃焼空気を予熱することで効率が向上する
- 給水予熱:電気式の高効率給湯器などで給水予熱することで効率が向上する
照明のLED化と人感センサーによる節電
蛍光灯や水銀灯からLED照明に更新することで、消費電力を60〜70%程度削減できます。
特に長時間点灯が必要な場所や、水銀灯のような消費電力の大きな照明から優先的に交換すると、省エネ効果は顕著です。
一方、トイレや階段など、人の出入りが不定期で消灯忘れが多い場所では、人感センサーを導入することで、不要な点灯時間を大幅に減らすことができます。
使用場所に応じて、LEDへの更新と人感センサーの導入を適切に組み合わせることで、工場全体の電力消費を効率的に削減し、省エネ効果を最大化することが可能です。
空調設備の温度調整と稼働時間の管理
空調の適切な管理は、消費電力量削減につながります。設定温度を1℃緩和するだけで、消費電力量を約10%低減することが可能です。
また、長時間人がいない場所ではエアコンを停止することで、さらなる省エネ効果を得ることができます。
ただし、短時間の不在の場合は、再起動時の大きな電力消費により増エネになる可能性があるでしょう。
空調機器の使用状況を細かく管理し、必要な場所と時間に限定して運転することで、快適性と省エネの両立を実現させることができます。
ビニールカーテンによる節電
冷蔵・冷凍倉庫でよく見かけるビニールカーテンですが、工場でも冷却・空調エリアを限定することで冷凍機や空調機の消費電力量の低減が期待できます。
建屋全体を冷却・冷房するのではなく、人や製品が実際に必要とする特定のエリアのみに限定することで、電力消費量を低減できるでしょう。
ビニールカーテンは比較的費用を抑えて導入でき、即効性のある省エネ対策なので、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
再生可能エネルギーの導入
省エネに加え、創エネの観点も重要です。太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの導入は、工場全体の消費電力量を削減できます。
これらの再エネ設備導入に対して、様々な補助金制度が用意されており、制度を活用することで、初期投資を抑えて導入することが可能です。
再エネ設備の導入は、エネルギーコストの削減だけでなく、企業としての環境への取り組みをアピールできる点や非常時の電源を確保できる点でもメリットがあります。
老朽化した機器の入れ替え
最新の高効率機器への更新も大きな省エネ効果をもたらします。
再生可能エネルギー導入と同様に、設備更新に活用できる省エネ補助金も少なくありません。これらの補助金を有効活用することで、初期投資を抑えることができます。
老朽化した設備は効率が低下していることが多いため、設備容量が大きいものや稼働時間が長いものから順に進めることで、投資効果を最大化できるでしょう。
また、高効率機器への更新は、エネルギーコスト削減だけでなく、生産性向上や品質改善にもつながる可能性があります。
屋根や外壁の断熱・遮熱の施工
工場建屋の省エネ対策として、屋根や外壁の断熱・遮熱処理も有効な手段です。
特に工場で一般的な折版屋根は、日光による熱吸収が大きく、空調負荷の増大につながるでしょう。
これに対し、屋根や外壁に断熱材を設置することや遮熱塗料の塗布、遮熱シートの設置は、室内環境の改善や空調効率の向上に貢献します。
大規模な改修が難しい場合でも、窓へのブラインドや遮光フィルムの設置など、比較的簡単で低コストな対策も有効です。これらの対策は、冷房負荷と暖房負荷を同時に軽減でき、年間を通じて安定した省エネ効果が期待できます。
大型蓄電池の導入
大型蓄電池の導入も効果的です。特に太陽光発電システムと組み合わせることで、大きな省エネ効果を発揮します。
太陽光パネルで発電した電力のうち、工場内で消費(自家消費)できない余剰分を蓄電池に蓄電し、必要な時間帯に放電して使用することが可能です。これにより、発電した電力を無駄なく活用でき、電力会社からの買電量を削減できます。
さらに、需要電力のピーク時に放電し、需要電力をカットすることができた場合、電気料金の低減にも貢献するでしょう。
消費電力の見える化
省エネ対策はエネルギー使用量が大きいものから優先的に無駄がないかを検証し、対策していくことが重要です。
しかし、どの設備がいつ、どれくらい稼働しているか把握できなければ、課題の発掘やそれに対する有効な手段をとることができません。
そこで導入するのが「電力の見える化」です。工場全体、建屋別、設備別など、目的に合わせて電力使用量を計測・可視化することで、以下のような省エネのヒントが得られます。
- 生産設備やユーティリティ設備の待機電力の無駄
- 消費電力の過度な増加や効率低下している設備の特定
これらの情報をもとに、優先順位が高い省エネ対策から手を付けていきましょう。
製造業の工場におけるエネルギー消費状況
ここで、業界全体のエネルギー状況について整理してみましょう。製造業は二度のオイルショック、世界金融危機、東日本大震災、新型コロナウイルスなどを乗り越えて発展してきました。
ここでは、製造業において、エネルギー種別ごとの推移やどんな機器や装置に多くエネルギーが使用されているかを解説します。
製造業エネルギー源別消費の推移
資源エネルギー庁が公表している「企業・事業所他部門のエネルギー消費の動向」から製造業のエネルギー消費の推移を種別ごとに見てみましょう。
この報告によると1965年度に最も多かったエネルギーは石油の1,338PJであり、第一次オイルショックが起きた1973年度でも同じく石油がトップで、その消費量は3,765PJと約3倍まで増大しています。
以降は石油からの燃料転換が進むものの、2020年度においても未だにトップは石油の1,736PJです。2020年度の化石燃料使用量は全体の62%を占めており、今後は2050年のカーボンニュートラルに向けて、化石燃料の使用量は減っていくでしょう。
機器別の電力消費量
次に機器ごとの電力消費量について見てみましょう。こちらは富士経済グループが2017年12月7日にプレスリリースした「産業施設におけるエネルギー使用実態」を参考にしています。
2015年度のデータにはなりますが、機器別の電力消費量は電気炉・加熱設備が最も多く(331PJ)、次いで動力・搬送設備(273PJ)でした。
調査対象とした業種のうち最も電力消費量の多かった「鉄鋼業」が多数所有している機器が全体に占める割合も大きいという結果となっています。
一方で、照明や空調、コンプレッサー、ポンプ・ファンなど、どの工場にもありそうな設備の割合は大きくない結果が意外な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
工場が省エネに向けた改善をする理由
工場の省エネ改善には主に2つの理由があります。1つは明確なコスト削減効果、もう1つはステークホルダーからの要求です。
コスト削減については理解しやすいですが、ステークホルダーからの要求の重要性は見落とされることが少なくありません。
電気代や燃料費が高騰している
省エネ対策をとる理由の1つは、エネルギーコストの削減です。近年、ウクライナ戦争などの国際情勢により、エネルギー単価が急騰しました。このような状況下で、コストアップを抑制する効果的な手段として省エネ対策が注目されています。
エネルギー単価の上昇が避けられない中、使用量自体を削減することがコスト抑制に有効です。
削減コストはそのまま企業の利益とも言えるため、省エネ対策は単なる環境への配慮だけでなく、企業の財務面でも重要な戦略となっています。
CO2削減の要求が高まっている
2015年のパリ協定以降、世界的にCO2削減と気候変動抑制への取り組みが加速しています。この流れから企業へのCO2削減要求も高まっているのが実情です。
一部の企業では、取引先にもSBTやRE100など、CO2排出量の削減目標の策定や具体的な取り組みの開示を求め始めています。このような状況下で、省エネ(省CO2)への取り組みは企業にとって極めて重要です。
環境への配慮は、企業の社会的責任であるだけでなく、取引継続や新規ビジネス獲得の鍵となる可能性があるでしょう。そのため、積極的に省エネ対策を実施し、その成果を適切に開示することが重要になってきます。
工場で省エネ改善を行う意義・メリット
次に、工場での省エネ対策の意義とメリットを解説します。
企業価値向上、コスト削減、事業効率化などの観点からその重要性を紹介しますので、現場で省エネ推進するための材料やヒントにしてください。
脱炭素経営につながり企業価値があがる
省エネ改善に取り組む姿勢は、ESG投資の観点から企業価値向上に直結するでしょう。
ESG投資では、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の要素が投資判断の基準となり、脱炭素経営は特に環境面で評価されます。
さらに、省エネ・脱炭素対策は、将来の規制強化や市場変化への適応力を高め、企業の長期的な持続可能性を示すことが可能です。
これらの取り組みは、単なるコスト削減策を超え、企業の戦略的優位性と将来性を示すものとして、投資家や市場から評価されるため、省エネや脱炭素への取り組みは、企業の総合的な価値向上に大きく貢献します。
設備の寿命が延びる
省エネ改善は設備の長寿命化にも貢献します。設備運用の最適化やインバータ機器などの制御システムの導入により、設備への負荷を軽減し、寿命を延ばすことができるでしょう。
これは、エネルギー効率の向上だけでなく、設備の維持管理コストの削減にもつながります。しかし、過度な省エネ運転には注意が必要です。
例えば、頻繁な発停の繰り返しは機械の消耗を早め、逆に寿命を縮める可能性があります。
したがって、省エネ対策を実施する際は、エネルギー効率と設備の耐久性のバランスを考慮することが重要です。
コスト削減効果を得られる
省エネ改善することで、エネルギーコストを削減することができます。最新の高効率設備への更新や運転条件の最適化により、電力消費量や燃料使用量を抑制し、ランニングコストの低減が可能です。
まずは、冒頭でご紹介した省エネ対策を実践してみてください。これらの取り組みは、短期的なコスト削減だけでなく、中長期的な企業の競争力強化にも寄与するでしょう。
省エネ投資は、初期費用が必要ですが、その後の継続的なコスト削減効果により、投資回収も比較的早期に実現できます。
事業効率化の促進につながる
省エネ活動は、直接的なコスト削減効果以外にも、事業全体の効率化にも大きく貢献します。
従業員のコスト意識と生産効率への関心を高め、業務プロセス全体の改善につながる可能性があるでしょう。
- 従業員の意識向上:エネルギー使用の無駄に気づき、改善策を考える習慣の形成
- 業務プロセスの見直し:作業手順や設備配置を最適化
- イノベーションの促進:効率化のアイデアが他の分野にも波及
ただし、これらの効果は短期間では得られにくいため、長期的視点で分かりやすく継続可能な省エネ対策を実施することが重要です。
全社的な取り組みとして位置づけ、定期的な成果の共有や教育を通じて、持続的な改善文化を形成することが成功の鍵となります。
まとめ
工場が省エネに取り組むべき理由と具体的な改善策をご紹介しました。
省エネは従来のように節約のためだけに実施するのではありません。2050年のカーボンニュートラルに向けて、今後より省エネ・脱炭素経営の重要性は高まっていきます。
今回、ご紹介した情報を基に、企業が規制強化や市場変化に柔軟に対応できる強固な経営基盤を構築することが大切です。
協和機工株式会社では、特殊工具を使った工場のメンテナンスや、超音波センサーカメラを用いたエア漏れの可視化によるエア漏れ検査サービスなど、工場の省エネに寄与するサービスを提供しています。日々の業務で手一杯になりがちな中小企業でも、省エネ・脱炭素経営が身近なものとなることが、私達の使命だと考えています。ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。